「マンガでやさしくわかる認知行動療法」を読んで
「マンガでやさしくわかる認知行動療法」を読んだので、認知行動療法について個人的に気になったポイントをまとめます
目的
最近身近な人が精神疾患にかかって大変なことになり、今後何か手助けできることはないか、そもそも予防できないか、といった観点で改めて調べていたところ、以前から気になっていた認知行動療法が目に留まりました。早速「マンガでやさしくわかる認知行動療法」という本を読んでみたところ、既に深刻な症状が出ている場合はやっぱり医者に診てもらうのがベストだなと思いましたが、予防の観点ではかなり参考になったので、この本を中心に認知行動療法の基本的なところを自分なりにまとめてみようと思います。
認知行動療法の概要
認知行動療法とは、うつ病などの様々な心の病に対する有効性が医学研究で立証されている心理療法です。
「事実」はたった一つですが、捉え方は人によって様々です。この人によって異なる事実の捉え方、受け止め方を、専門的な言葉で「認知」と言います。
この認知と共にさまざまな気分や感情が生まれ、その感情に後押しされて、仕事に集中する、泣く、といった「行動」が生まれます。
認知行動療法は、ある状況に出くわした時に、感情や行動が、認知によって影響を受けることに着目します。より現実的で幅広い認知を自分自身によって選択できるようになることで、必要以上に落ち込んだり、不安になったりすると言った不快な感情を軽くして、本人が本来持っている力を発揮できることを目指します。
心の病でなくても、誰もが日々の生活の中で体験するようなうつ病未満の落ち込みや気分の変化に対しても、心を柔らかくしてさまざまな視点から考えたり、状況整理の方法として利用したりするなどで、心を整える方法として活用され始めているそうです。
「こう考えるといい」「こんな行動をすればいい」といった具合に理屈だけで何とかなる話でもないので、認知行動療法は、課題を捉えた本人が気持ちの上で「よかった」という感覚にたどりつくことを大切にしながら、そこへの道筋を示しています。
今開発・運用している「時もち」というスマホの使用を自主的に制限するデジタルデトックスアプリや、新たに開発しているアプリでも、自分で自分の心を整えることを大事にしているので、開発の上でもこれらの考え方は非常に参考になりました。
認知行動療法の詳細
認知行動療法は、大まかに以下のような進み方になるそうです。
- まず、自分の直面している状況や課題を整理し、そこに直面している状態を観察する練習から始める
- 自分のことを観察していく中で、考え方や行動のクセが明らかになる
- さらに、それらのクセを修正するために、考え方や行動を変化させていく
- 状況によっては、具体的な問題解決を進める
状況を整理し、それを客観的に観察する力をつける
まずは状況を整理できるようになり、その後それを客観的に観察する力をつけます。自分を客観的に見る、自分を俯瞰して見ると言うのは、実は思っているよりも難しく、できるようになるためには練習が必要です。そのためにできる具体的な方法が以下です。
- 感情リストから自分のその時の感情に見合ったものを選ぶ
- 考え(認知)、感情、行動、感覚(身体反応)に分けて整理する
感情リストから感情を選ぶ
「不安」「怒り」「楽しい」といった様々な感情のリストを用意し、状況・出来事(事実)に対する感情を選ぶことで、モヤモヤしていたものを具体的な単語にすることができ、少し自分が客観的に見れるようになります。
事実に対して、思考・イメージ(認知)、行動、感情、身体・感覚、に分けて記録する
以下の例のように、事実に対して、思考・イメージ(認知)、行動、感情、身体・感覚、に分けて記録することで、より自分を客観的に見ます。
状況確認シート
事実 | 上司に呼び出され、「失望させないでくれ」と言われた |
---|---|
思考・イメージ | 私のことを嫌いなんだ。何をやってもうまくいかない |
行動 | ひたすら謝る |
感情 | 不安 |
身体・感覚 | エネルギーがなくなり疲労感がとれなくなった |
なぜ記録することが大切なのか?
それが自分に対する客観的なデータとなり、客観的に見ることで、苦しみから一歩離れる効果があります。例えば、「不安」を少し客観的に見られるようになることで、その気持ちの中にいる時と少し違った感じを持てるようになります。
また、例えばダイエットしている時の体重測定や、ランニングのタイム計測のように、記録すること自体が自分の心にとって良い行動を続けるモチベーションにつながります。続けることで、自分をどんな時にも自分を客観的に観察する力がついていきます。
記録することが、長期的な視点で見る力を育てることにもつながります。
活動についても記録する
更に一歩進めて、活動についても記録すると、生活リズムと気分の変化の繋がりを調べることができるようになります。これは他のメンタルヘルス関連の様々な本でも述べられていましたが、運動や睡眠は心の状態と密接に関連しているそうです。
なぜ振り返ることが有効なのか?
過去の状況や自分の反応を振り返ることによって、現在、そして未来の自分の反応や状態を予測することができます。そして、未来の対応を望ましいように修正することもできます。
目標を定める
自分の状態がわかるようになってくると、次には「どうしたい」「どうなりたい」ということが自然に考えられるようになります。
まずは、実際にできるか、現実的かどうかなどは気にせずに、「どうなりたい」「どうしたい」をどんどん書き出してみます。それを、「大切だと思うこと」「現実的に可能そうなこと」「その他」に分類します。その上で、「大切 && 現実的に可能そうなこと」が重なる項目を選び出します。
良い目標とは?
実現に結びつく表現になっていることが大事です。以下のSMARTを意識すると良いそうです。
- S (Specific) 特定の、具体的な
- M (Measurable) 達成の程度を測定できる工夫
- A (Able) できそう
- R (Relevant) 自分の問題と関連していて、意味を感じられている
- T (Timed) 実行する期間、タイミング、頻度など
考え方や行動のクセ(認知の歪み)を明らかにし、修正していく
認知行動療法における否定的な思考パターン(「認知の歪み」)10パターン
認知行動療法では、否定的な思考パターン(「認知の歪み」)を特定し、より柔らかいバランスの取れた(現実的で適応的な)思考に置き換えることを重視します。
穏やかな時はバランスが保たれているおかげでクセが表面化していないこともあります。ほんのちょっとしたきっかけで眠っていたネガティブな考え方の癖が表面化して、メンタル不調なんかには無縁だ、と言っている人が不安定状態に陥ってしまう例は決して少なくありません。調子が崩れた時にどんな考え方のクセが出やすいか、と言う視点で見てみると良いです。
クセは単なるクセであり、問題ととらえる必要はありません。ただ、そのクセを明らかにすることによって、そのクセの強さを適度に緩められるようになります。
以下に、認知の歪みの代表的なパターンとその内容、具体例を示します。(ここはChatGPTに出力してもらいましたが、内容は本に書いてある内容と同じです。
1. 白黒思考(All-or-Nothing Thinking)
内容: 物事を極端に二分する思考。中間の状況やグラデーションを認識せず、全てが「完全に良い」か「完全に悪い」のどちらかに分類される。 例: 「もし失敗したら、私は完全な失敗者だ。」
2. 過度の一般化(Overgeneralization)
内容: 一つの出来事や経験を基に、全体を決めつける思考。単一の出来事が全ての出来事に当てはまると考える。 例: 「一度試験に失敗したから、私はいつも試験に失敗する。」
3. マイナス思考(Mental Filter)
内容: 一つのネガティブな出来事に過度に焦点を当て、それ以外のポジティブな出来事を無視する。 例: 「上司に一度批判されたことだけを思い出し、他の褒められたことを全く考えない。」
4. 心のフィルター(Disqualifying the Positive)
内容: ポジティブな経験や出来事を否定し、ネガティブな側面だけを認識する。 例: 「今日は上手くいったけれど、ただの偶然だ。」
5. 結論の飛躍(Jumping to Conclusions)
内容: 根拠なしに結論を急ぐ思考。以下の2つのタイプがあります。
- 読心術(Mind Reading): 他人の考えや感情を推測し、事実として受け入れる。 例: 「彼は私のことを嫌っているに違いない。」
- 未来予測(Fortune Telling): 将来の出来事を予測し、ネガティブな結果を確信する。 例: 「このプレゼンは絶対に失敗する。」
6. 拡大解釈と縮小解釈(Magnification and Minimization)
内容: 自分の失敗や他人の成功を過大評価し、自分の成功や他人の失敗を過小評価する。 例: 「私が間違えたことは大問題だけど、彼がミスしたことは大したことない。」
7. 感情的推論(Emotional Reasoning)
内容: 自分の感情が現実を反映していると信じる思考。 例: 「私は怖いと感じているから、この状況は危険だ。」
8. 「べき」思考(Should Statements)
内容: 自分や他人に対して「~すべき」「~でなければならない」という厳しい規範を持つ。 例: 「私はいつも完璧であるべきだ。」
9. レッテル貼り(Labeling and Mislabeling)
内容: 自分や他人の行動を基に、過度に単純化したレッテルを貼る。 例: 「私は失敗者だ。」
10. 個人化(Personalization)
内容: 自分が他人のネガティブな出来事の原因であると感じる。 例: 「息子の成績が悪いのは私の育て方が悪いからだ。」
行動を変える
行動を変えるとしたら、気合いや根性に頼って頑張るのではなく、変化が起こりやすい状況を準備する方が有効です。人は行動してよかったと感じる体験をすると、その行動を繰り返すようになることが研究でわかっています。考えるより、動いてみるのが良いです。具体的には、以下のステップで進めます。
1. 改善したいと思っている行動を書き出す
2. 改善したいと思っている行動に優先順位をつける
行動として取り組めるのは、自分でできることだけです。すべての行動を同時に実行することは難しいので、まずは1つか2つだけを選ばなくてはなりません。
3-a. スモールステップで行動の選択肢を広げる
いきなり高いところに挑戦するのは難しいですが、すぐにはたどり着けないとしても、一歩一歩、スモールステップを大切に取り組みを続けていくことで、しっかりと目標に近づくことができます。「パーフェクトな行動」はなく、「無駄や失敗があってもいいや」くらいの気持ちで進めることが大事です。
3-b. 感情が強くなった時の選択肢を広げる
感情を0から10の強さで確認し、その時々の今までの普段の行動とその結果、そしてこれから取り組んでみたい別の行動の選択肢を事前に記載しておきます。怒りや不安などと言った感情が高まった時に行動がうまくコントロールできなくなる人も、この練習が有効です。
感情の主観的な強さ | 普段の行動 | 結果 | 別の行動案 |
---|---|---|---|
10 | なんとしてでも攻撃する | 時にケガをし、ケガをさせ、関係性を壊し、嬉しくない状況に陥る | その場を離れる |
8 | こちらの言い分を理解させ、そのように考えることが正しいと思わせようとする | 相手は理解を示して引き下がるか、スッキリせず、相手は自分と距離を置こうとする | ちょっと時間が必要だと考え、「自分の考えが必ずしも正しくないところもあるかもしれないが、よくわからないから少し落ち着いてから確認しよう」と伝える |
2 | 相手の発言や行動を軽んじて、「はいはい」とスルー | 敏感な人の場合には、少しギクシャクするように感じることもある | 相手が悪いのではなく、「自分が怒っているんだ」ということを確認する |
認知行動療法で、自分が自分の治療者になる
認知行動療法の取り組みは、全てを思い通りにすることでも、正しい考え方や行動を持てるようになることでもありません。大切なのは、何かしら自分ができることに取り組むことを通して、気持ちを整えられるようになることです。
多くの方は苦しい課題を克服するために、認知行動療法に着手することが多いと思います。その結果として、認知行動療法=問題解決と言う認識が固定されてしまうことも多々あります。すると、せっかく学んだにもかかわらず、問題がある時以外はその方法を活かす、と言う発想が浮かばなくなります。これは非常に勿体無いです。認知行動療法で学んだ手法は、問題解決の場面に限らず、より良いバランスを持った生活をするためにも、十分に活かせるものです。
認知行動療法は、最終的には「自分が自分の治療者になる」ことを目指して取り組むために、進め方と技法がパッケージ化されています。心の筋肉を鍛えるトレーニングに励むようなイメージです。うまくいかない時があることも自然なことであり、それは必ずしも取り組みの失敗を意味するわけではありません。
今開発しているアプリについて
以前書いた「【書評】一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全」を参考にとあるメンタルマネジメントに使えるアプリを開発中で、現在デモの実装が終わってデザインを詰めている段階なのですが、これに書いてあることとかなり共通点が多くて驚きました。いや、大枠の目的は同じなので当たり前といえば当たり前かもしれませんが。
改めて、今開発しているアプリが多くの方にとって有益なものとなるだろうと思えました。実はもう特許出願を済ませたので、そろそろしっかり公にしたいと思ってます。乞うご期待!