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【書評】一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全

本書を読もうと思った背景、読んだ感想と、印象的だった箇所や日常で具体的に実践できることを引用してまとめます。

Published: 4 October, 2023
Revised: 5 October, 2023

概要

本書を読もうと思った背景、読んだ感想と、印象的だった箇所や日常で具体的に実践できることを引用してまとめます。


背景

身近でも親戚、友人、同僚等、あらゆる人がメンタルヘルスに問題を抱えています。私自身過去に何度かメンタルヘルスを崩したことがあります。コロナの流行をきっかけとして、世界的にもメンタルヘルスに関する関心が高まっているようです。

日本に関しては、海外と比較しても精神科外来患者数が多く、延べ受診件数も多いそうです。

参考: http://www.npo-jam.org/library/materials/dl/j_usa_gb.pdf


日本の自殺が海外と比較して高いという話もよく耳にしたことがあると思います。

参考: https://www.mhlw.go.jp/content/r1h-1-10.pdf


宗教や文化の違いも大きいので一概にこれが原因だと語ることはできませんが、改善の余地があることには誰もが同意することと思います。これだけ深刻な問題なので、今は日本でも特に企業や学校でメンタルヘルスケアの仕組みが導入されつつあるようです。

ただ、日本ではまだカウンセリング文化やセルフマネジメントの概念もあまり浸透していないようですし、特に家庭でのケアという観点だと、まだまだ発展途上な印象です。私自身、こんなに身近な問題なのに、メンタルヘルスケアについてきちんと学んだこともありませんでした。


感想

先日本屋に立ち寄ったところ、たまたまこの「一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全」という本を見つけて良さそうだったので買って読んでみたら、正にこういうことを知りたかった!といった内容で感動しました。

この本では、様々な状態でメンタルヘルスを健康に保つための方法が、科学的根拠に基づいて記載されています。


一番強く感じたのは、「メンタルヘルスを健康に保つためには日頃から主体的に自分の精神状態を理解しコントロールしていく必要がある」という点です。「俺は健康だからいいや」とか、「病気だから仕方ない」といって適当に済ませるのではなく、日頃から継続して時間をかけて自分を気遣う努力を要するんだと思わされました。他人に左右されるのではなく、たとえ今現在何も問題を抱えていなくても、自分の意志でメンタルヘルスを健康に保つためのスキルを習得・練習し、将来のメンタルヘルスに投資する必要性を感じました。


全体を通して、食事、睡眠、運動を大事にする、日記をつける、といったことは大事だと書かれていました。

本書の概要

章立ては以下で、各場面に対処するための背景や考え方、スキルが記載されています。

  1. 気分が落ち込むとき
  2. やる気が出ないとき
  3. 辛い感情にとらわれているとき
  4. 大切なものを失ったとき
  5. 自信をなくしているとき
  6. 不安を感じているとき
  7. ストレスを感じているとき
  8. 心が満たされないとき


以降では、私が特に印象に残った点を引用してまとめます。

1. 気分が落ち込むとき

クロスセクション分析

気分が落ち込む原因が常に脳にあるわけではなく、体の状態、人間関係、過去と現在、生活状態、ライフスタイルにもある。食事、考え、行動、記憶など、すること、しないことの全てに原因がある。

気分の落ち込みを理解するための最初の一歩は、経験のひとつひとつの側面に気づくことで、この気づきは振り返ることから始まる。その日を振り返り、ある瞬間の経験を分解してみることに時間をかけ、練習を重ねるうちに、リアルタイムでそれらの側面に気づけるようになる。そこに状況を変えるチャンスがある。

気分が落ち込んだ瞬間について後からじっくり考える習慣を身につければ、経験のどのような側面が気分を落ち込ませるかに気づきやすくなる。

この整理に使えるのが「クロスセクション分析」で、ある経験に対する思考、感情、行動、身体的感覚を整理できる。これによって、自分がどのように気分の落ち込みの悪循環にはまり込むか、どのように抜け出すかを理解することができる。

また、気分が良いときの分析図も用意することで、「なりたい」感情になるためにできることを整理することができる。

https://www.psychologytools.com/resource/cross-sectional-formulation/


思考バイアスに気づく

心の読みすぎ、過度の一般化、自己中心的な考え方、感情的な推論、心のフィルター、〜すべき思考、全か無かの思考など、様々な思考バイアスが気分を悪化させる。思考バイアスに対処するには、思考バイアスが現れたときにそれに気づく必要がある。

思考バイアスに気づくには、感情が落ちついてから思考を振り返るのが良い。特定の瞬間(肯定的なものと否定的なものの両方)を選び、そのときの思考、感情、身体的感覚を区別する。思考を書き出したらバイアスのリストに目を通し、バイアスがかかっていたかどうかを調べる。

また、自分の思考を俯瞰するためにはマインドフルネスが助けになる。思考と距離を置いて、良し悪しを評価することなく観察できるようにする、科学的裏付けのある方法だ。

※マインドフルネスは、「日々の心配事や不安な気持ち、仕事や他人からの評価など、つい頭に浮かんでしまうことを鎮め、「今」だけに集中できるような精神状態を意識的に作っていく」ことを指すそうです。瞑想について語られることが多いですが、本書では、散歩や歯磨き、シャワー等のタイミングで一緒にマインドフルネスを実践できるとも記載されていました。


メタ認知

思考から一歩離れてその思考がどんなものであるかを思考する能力のことを「メタ認知」という。私たちは頭に浮かぶ思考をコントロールできない。コントロールできるのは、思考が現れた時にどうするかである。

体を動かす

気持ちを切り替えようとするとき、頭の中だけでそれをするのはとても難しい。多くの人が体を動かすことで気持ちをうまく切り替えられる。


人とのつながり

苦しい感情が登場しグルグルと回り始めたとき、それを早々に舞台から追い出す最強のツールは、人とのつながりだ。人が鏡を掲げて自分の心を映し出してくれるので、自己認識力が高まる。人と一緒にいて、その人たちのことを観察し、交流し、つながりを築くことは、気分を高め、頭の中から抜け出て現実の世界に戻るのに役立つ。

自分が悩んでいることを誰にも明かそうとしない人は往々にして、ベストでない自分の姿を見せると、周囲の人々にとって負担になると思い込んでいる。しかし、かがくはその逆を示唆する。社会的支援は、受ける側だけでなく提供する側にも良い影響をもたらす。人と会う気になるまで待ってはいけない。行動が先だ。そうすれば気分は後からついてくる。人と過ごす時間が長くなればなるほど、メンタルヘルスは改善する。

人と一緒に過ごす時、自分がどう感じているかを打ち明ける必要はない。ただ人の近くにいて、彼らを見て、微笑みかけるだけでいい。

質の良い安全な人間関係を家族や友人の中に見つけられない時には、専門家に頼ればいい。


感謝の習慣

一日に一回、感謝していることを三つ書き出す。最愛の人の存在というような大きなことでもいいし、仕事を始めるときに飲んだコーヒーが美味しかった、というような小さなことでもいい。感謝するたびに、脳は心を明るくするものに注意を向ける練習をする。練習すればするほど、他の状況でも楽にそうできるようになる。重要なのは、その三つに何を選ぶかではなく、意識的に、感謝に注意を向けること。

大切な人を思いやるように自分を思いやる

愛する人を元気づけたり励ましたりするように、自分にも暖かな言葉をかける。

基本的なことを大切にする

落ち込んでいる時に最初に手を抜くのは日常生活だ。友人と疎遠になり、コーヒーをがぶ飲みし、眠れなくなり、運動もしなくなる。例えば新米の親は、赤ん坊が泣くために睡眠不足になりがちだ。赤ん坊の夜泣きをコントロールすることはできないが、自分の食事に気を配り、友人や家族とよく連絡を取るようにすれば、その時期をうまく乗り越えられる。

運動すると、ドーパミンの血中濃度が高まり、脳内のドーパミン受容体も増える。つまり、運動すると、日々の生活において喜びを感じる能力が高まる。昔から運動には「外見を変えるための辛いプロセス」というイメージがあるが、ちょっと息が切れるまでダンスするだけなど、ささやかな喜びを感じられるような、続けられる運動から始めて、少しずつ増やしていけば良い。

睡眠が足りないほぼ確実に気分が落ち込み、立ち直る自信が失われる。良い睡眠を取れていないと思うのであれば、それを改善するために、時間と労力を費やす価値は十分にある。リズム(体内時計)は光を浴びることで調節される。朝起きて30分以内に日光をたっぷり浴びる。曇っていても、屋外で日光を浴びるのがbすと。日中も、できるだけ長く外で過ごす。夕方以降は、画面の明るさをおとし、できるだけ早い時間に電源を切る。

夜になって枕に頭を乗せると途端に脳が心配し始める人は、心配ごとリストを作る。このリストが、翌日のやることリストになる。明日、時間を作ってそれらに取り組むことを自分に約束すれば、心配事を手放して眠ることに集中できる。

健康的な食事を摂ると、加齢に伴ううつ病を予防できることまで、科学的に証明されている。


2. やる気が出ないとき

行動が先

やる気は自然に生じるものではなく、行動によって生じさせる必要がある。何もしないでいると、心は燃料切れになり、無気力や「めんどくさい」という気持ちが一層強くなる。モチベーションは行動の副産物であり、ジムに向かうときではなく、ジムから戻る時に湧き上がってくる。

気分が落ち込み、「何をする気にもなれない」と思っていても、何かを始めることで、自分の中に生物学的・感情的変化を起こすことができる。


目標日記をつける

自分が取り組もうとしていることを、時間をかけて観察し、記録するのは非常に重要であり、そうすればモチベーションをより頻繁に感じられるようになる。一日の始まりの一分間、目標を達成するためにその日にすべきことを一つか二つリストアップする。そしてその日の終わりには、今日を振り返って、数行書き記す。毎日それを行うことで、自分の行動に責任を持ち、目標に気持ちを集中させ続けることができる。


タスクを小さくする

新しい習慣を身につけるには、小さなことから始めて、一つずつ定着させていく。長期的な目標に対するモチベーションが下がった時には、小さな報酬が助けになる。外発的報酬ではなく、内初的報酬だ。自分の努力には価値があることを認め、頑張っている自分を褒めてあげる。

習慣を確立する

モチベーションを高める最善の戦略は、モチベーションを方程式から除外することだ。モチベーションがあってもなくても、毎日やっていることがある。例えば、朝歯を磨くこと。

努力と休息のバランス

どの日にも、懸命に働いたり努力したりする合間に、静かで少々退屈な時間が訪れるはずだ。その時間を使ってメールを削除したり、ソーシャルメディアをスクロールしたり、細々した用事を片付けたりしたら、体と脳は休息も充電もできない。会議の合間に15分の空白時間があったら、スマホに手を伸ばすのではなく、外へ出て新鮮な空気を吸ったり、しばらく目を閉じて過ごしたりしよう。


DBT (弁償的行動療法)

望ましい未来を考えることは有益だが、望ましくない未来を考えることも有益だ。DBTのセラピーでは、現状を維持する場合と懸命に変化に取り組む場合のメリットとデメリットを詳しく検討する。この作業は、将来、人生の改善を諦めそうになったり道を踏み外しそうになったりした時に、軌道修正の助けになる。より望ましいのは、日記をつけて、変化に取り組んでいる時の自分の反応を常に見返すこと。

記録して振り返る力を培う

大きな変化を遂げたい時は、記録することから始める。自分の経験と、自分がどう対処したかを振り返る力を培う。細部に目配りすることで、過去の経験をより深く理解できるようになり、やがて、経験している瞬間に、自分の行動のサイクルやパターンに気付けるようになる。


3. 辛い感情にとらわれているとき

感情を受け入れて影響を及ぼす

感情を消し去ろうとするのではなく、感情との関係を変え、それらに注意を払い、ありのままの感情を知り、受け入れ、それに影響を及ぼし、その強さをコントロールすることを学ぶ。感情を望み通りに引き出すことはできないが、感情に影響を与えることはできる。自分の幸福に責任を持ち、感情を感じる新たな方法を学ぶ。


感情に問いかける

辛い感情が湧き上がったら、好奇心を持って尋ねる。感情に好奇心を持って学ぶ。思考や物語を書き記す。


感情を表現する語彙を増やす

感情を表現する語彙を増やし、感情の微妙な違いを識別できるようになると、感情をコントロールし、社会的状況において有益な反応を選択できるようになる。ネガティブな感情を区別する概念や言葉が乏しい人は、ストレスを受けると落ち込みの度合いが激しいという結果を示す研究がある。

何か感じたら、「すごい」とか「うれしくない」だけでなく、より具体的に表現する。

参考: https://www.visualcapitalist.com/a-visual-guide-to-human-emotion/


セルフ・スージング

辛い感情を経験しているときに安全を感じ、気持ちを宥めるための一連の行動を指す。温かな飲み物、信頼できる友人や愛する人とのおしゃべり、体を動かす、音楽を聴く、美しい画像を見る、ゆっくり呼吸する、安全や快適と結びつく香りや香水など。また人に話す気になれない時には、書いて表現することで感情を処理すれば、何が起きているかをより明確に理解できる。


日記を書く

ポジティブな感情、思考、記憶を日記に記すことで、そのための経路を育てることができる。そうやって望ましい感情と経験の経路を強化しておけ場、それらにアクセスしやすくなる。


大切な人を支える

心の問題を抱える人の多くが望んでいるのは、ああしなさい、こうしなさいと指示されることではなく、自分のことを気にかけ、たびたび見にきてくれることだ。人を支援することは、緊張をはらむ深刻な会話をすることではない。相手にとっては、一瞬でも人とのつながりを感じられることが重要なのだ。自分が最も必要とされるときに、そばにいるようにしよう。


4. 大切なものを失ったとき

悲嘆の段階を知る

悲嘆には、否認、怒り、取引、抑うつ、受容という段階がある。


表現する

信頼できる人を見つけて悲嘆について語る。語るのが難しい場合は、書く。どのような形でも、言葉が浮かんだらそれを書き留める。思考や感情を表に出して書き記すことは、心と体で起きていることを理解する助けになる。


専門家の支援を得る

悲嘆の痛みを乗り越えるにはサポートが必要だが、誰にでも信頼できる人や心を開いて話せる人がいるわけではない。そんなとき、セラピールームは聖域になり、ありのままの感情を安全に解放することができる。


5. 自信をなくしているとき

恐れを恐れとして感じる

自信を育てるために大切なことは、重要な行動を起こす時に恐れを恐れとして感じることだ。何かに自信が持てるようになると気分がいい。そこに留まり、現状を保ちたくなる。しかし、そこに留まっていると、自身はそれ以上に大きく育たない。自分が上手くできるとわかっていることだけやっていると、新しいことや未知のことに対する恐れが膨らむ。

自信を育てるには、自信を持てない領域にあえて踏み込む必要がある。未知の世界に足を踏み入れ、自らの恐れに向き合おうとする勇気が自信を育てる。恐れと共存することを学ぶ。


ストレッチゾーンへ踏み出すために必要なもの

コンフォートゾーン → ストレッチゾーン → パニックゾーン があり、ストレッチゾーンに足を踏み入れるたびに私たちは勇気を出し、自信を育んでいる。ストレッチゾーンへ踏み出すためには、自分は努力すれば向上できることを認める必要がある。また、しばらくの間は無力であることに耐える必要がある。


もっと自信を持ちたいと思う状況をリストアップする

もっと自信を持ちたいと思う状況をリストアップする。リストの一番上には、最も圧倒されそうな状況を書く。そして、それよりはマシだが、やはり圧倒されそうな状況をその下に書く。難しく思えても、どうにかこなせそうなものから始めて、その行動をできるだけ多く繰り返す。自身がついてその状況がコンフォートゾーンになったら、リストの上の項目に進む。


成長するためにも自己受容が必要

事故を受容し、自分に思いやりを持つ人は、失敗を恐れにくく、失敗しても再挑戦し、次第に自信をつけていくことを研究が示している。自己受容を積極的に深めていかなければ、常に安心を渇望し、嫌いな仕事や有害な人間関係にとらわれたり、怒りを蓄積させたりするようになる。自己を受容するにはまず、自分が何者で、どんな人でありたいかを理解する必要がある。それは自己認識から始まる。自己認識は内省によって得られる。日記をつける、セラピストに相談する、友人と話すといったことはすべて内省を促し、自分や自分の経験を顧みることを助ける。


思いやり深い側面を鍛える

自らの思いやり深い側面を鍛えるには、日常的に何度も思いやることを練習するといい。自分に宛てて思いやり深い手紙を書いてみる。自分を変えようとして苦しんでいる親友への手紙のつもりで書いてみる。自らの思いやり深い側面と向き合い、思いやりを示す様々な方法を考えることで、必要な時のために、心の筋肉を鍛えることができる。


6. 不安を感じているとき

恐怖に支配させない

私たちは、恐怖を理由に何かに対して「ノー」というたびに、「それは安全でない」「自分の手に追えない」という思い込みを再確認する。恐怖ゆえに何かを人生から切り離すたびに、人生は少しずつ狭くなっていく。今日、恐怖から逃れようとすると、長期的には人生の選択肢を恐怖に支配させることになる。怖いものを避けてばかりいると、脳は、それを乗り越えられるという証拠を蓄積できない。何かについて不安を感じたくなければ、できるだけ頻繁にそれを行えば良い。そうすれば、不安と共存できるようになり、やがて不安は減っていく。


呼吸で不安を和らげる

闘争・逃走反応に燃料を与えるために体が酸素を余計に取り込もうとするため、過度の不安が起きると呼吸が速くなる。例えば7数える間に息を吸って、11数える間に息を吐くなどは、即効性のある不安解消法となる。


運動する

不安反応は闘争・逃走の準備をするためのものなので、それが起きると、筋肉は酸素とアドレナリンで満たされ、すぐに動ける状態になる。ストレスの多い日は戸外で短いジョギングをするとか、30分ほどサンドバッグを叩くといい。運動すると、体が物理的ストレスから解放されるので、運動を終えてくつろぐときには穏やかな気持ちになり、眠りにつきやすく、充電もしやすい。運動は不安に対する強力な予防策になるので、不安を感じない日も運動するようにしよう。


思考を客観的に表現する

不安と距離を取るために、思考を客観的に表現する。自分の感情や状況を新たな視点から見たい時には、考えていること、感じていることを、全て書き出す。書き出したものを見ることは、俯瞰的な視点から経験を処理し理解するための強力な方法になる。


死を受容する

死の恐怖は多くのメンタルヘルスの問題の根底にあると主張されてきた。私たちは死という絶え間ない脅威から身を守るために、安心感もたらす行動で人生を満たそうとする。人生の一部としての死の確実性と、それがいつどのように訪れるかわからないという不確実性を受け入れる。死を受容することで、自分の価値観に基づく意義のある生き方ができるようになる。

墓石に数行だけ書くとしたら何を書きたいかを考えることは、自分が何を重視しているかを探る良いタスクになる。それが今日から拠り所にして生きたいと思う人生の意義になる。

また、死をテーマとする文章を書くことは、死に対する恐怖を探究するのに役立つ。なぜなら、洞察や思考の流れを止めることなく、死との間に距離を取って、心を落ち着かせることができるからだ。いつでも中断できるし、心の準備が整ったらまた書き始めるといい。


7. ストレスを感じているとき

ストレスは必ずしも敵ではない

ストレスは必ず害をもたらすわけではなく、常に排除しなければならないわけでもない。たとえば、職場でのプレゼンテーションや学校での発表を前にしてストレスの兆候を感じたら、それは私たちが最善を尽くせるよう、体た後押ししてくれている。そうした状況で求められているのは、完全な落ち着きやリラックスではなく、しっかり覚醒し、明晰な思考でタスクを完遂すること。必要な時にストレスの目盛りを上げ、必要でない時に目盛りを下げることを学ぶのは、健全なストレスマネジメントの基本。ストレスとは、自らの価値観に沿って努力し、目的と意味のある人生を送っていることの反映。


自分よりも大きな目標に焦点を当てる

自分の選択と努力がより大きな目標のために役立つかどうかを考えるだけでストレスは軽減する。自分の行動が多少なりとも他者の役に立つかどうかに注目することで、困難で高い要求にさらされる状況でもストレス反応は減る。ストレスの多い出来事を経験している時に、その苦難と自分の価値観との関連や、他者への影響に注意を向けるようにすると、ストレスに対処しやすくなる。苦難の意味を変えることで、ストレスから逃げたり避けたりするのではなく、それに耐えようという気持ちになる。努力自体を自尊心の根拠にすることで変化が起きる。


マインドフルになる

科学が明らかにしているように、瞑想は脳と生活の質に強力な影響を及ぼすテクニックだ。ガイド付きの瞑想の大半は30分ほどだが、長時間瞑想できない人にとっては、11分間のヨガニドラでもストレス軽減に役立つことが、最近の研究によって明らかになった。ストレスが強く時間がないときには、10分間ソーシャルメディアをスクロールするより、ヨガニドラを行った方が良いだろう。

マインドフルになるというのは、キャンドルに囲まれて終日瞑想することではない。今この時に意識を集中させ、感情にとらわれたり抗ったりすることなく感情を観察することだ。つまり、経験に対して判断を下したり性急に意味付けしたりせず、心を開き、興味を持ち続けることを意味する。ウォーキングやシャワー、歯磨きでもそれはできる。心が彷徨っていることに気づいても、マインドフルネスに失敗しているわけではない。


畏怖を感じる

畏怖とは理解を超える存在に対峙したときの感覚である。広大な宇宙における自分の小ささを感じることほど、ストレスを軽減し、新たな視点をもたらし、心を穏やかにするものはない。ストレスに対処する時には、動物と共に過ごす、自然の中で過ごす、素晴らしいパフォーマンスを見る、星を見上げるなど、自分が畏怖の念を抱いたものを掘り下げることをお勧めする。そうした経験を日記などに記録しておくといい。そうすれば自分への影響を理解し、その場所に戻ることはできなくても、その思い出に戻ることができる。


ストレスを役に立つ強みと捉える

ストレス反応を「問題」と捉えるのではなく、「役に立つ強み」と捉えるようにすると、ストレス反応の抑制にエネルギーを奪われることなく、面前のタスクに全エネルギーを注げるようになる。ストレスを活用して、やるべきことに集中し、精力的にこなそう。プレッシャーがかかるとパフォーマンスが向上することを知ると、実際のパフォーマンスが33パーセント向上するそうだ。


8. 心が満たされないとき

人間は常に幸せでいられるようにはできていない

私たちは「幸せが標準であり、そうでなければメンタルヘルスに問題がある」とか、「物質的な豊かさを手に入れれば、幸せになれる」と思い込まされている。しかし、感情は天気のようなものだ。感情は常に動き、変化し、予測できる時もあれば、突然、生じる時もある。

子どもを持つ人は、子育てに意義を覚え、日々、強い愛と喜びを感じるだろうが、同時に苦痛や恐怖を感じたり、恥を経験したりもする。つまり、幸せな瞬間は、大きな花束の中の一輪の花であり、その一つだけを取り出すことはできない。感情は束になって訪れるのだ。



自分の価値観を定期的に見直す

自分にとって何が最も重要であるかを定期的に見直すことが大切だ。価値観が定まっていないと、義務感や他者の期待、あるいは、それを達成したらようやく満足できる、リラックスして自分を認めることができる、という予測に基づいて、目標を設定しがちだ。そうすることの大きな欠点は、満足し幸せになるための条件を限定してしまうことだ。また、満足と幸福感の全てを、今ではなく将来に置くことにもなる。

何かに向かって努力する時、なぜそれに取り組むのかを明らかにし、人生における満足や幸福感は終着点に待っているものではなく、そこまでのプロセスにあることを理解しておくのは有益だ。将来、幸せになるのを期待するのではなく、自分にとって最も大切な価値観に従って生きることで、今、人生が有意義で目的のあるものになるとしたら、どうだろう? 私たちは、依然として変化と達成を目指して懸命に努力しなければならないが、意義深い人生の訪れを待っているのではなく、すでにそれを手に入れているのだ。


人生において何が重要かを明らかにする

ライフステージや直面する問題によって価値観は変化していく。したがって、時々、自分の価値観を確認することは有益だ。「熱意」「正直」「公平さ」など、自分に関係があり重要だと思える価値観を洗い出し、それに沿った目標、それが日々の行動にどう反映するかを書き出す。こうすることで、困難な日にも幸せな日にも意義を見出すことができるようになる。

「人間関係」「健康」「育児」など、人生で大切にしたい領域を洗い出し、それぞれの領域について今どれほど自分の価値観にそって生きているかを10段階で表す。たとえば「健康」について、思うほど健康を優先していないと感じていたら、5を記録する。

どの価値観が本当に自分のもので、どれが押し付けられたものかがわかれば、人生のある側面が充実感より疎外感をもたらす理由がわかるだろう。

価値観を定期的にチェックするもう一つの方法は、日記を書いたり、簡単な内省を行ったりすることだ。


日々具体的な行動を繰り返す

ただ目標を持つだけでは生活は変わらないし、変わったとしても、変化は持続しない。私たちをその方向へ前進させるのは、日々繰り返す具体的な行動なのだ。まず、自分がどのような人になりたいかをじっくり考え、イメージをはっきりさせ、そのイメージを具体的で持続可能な行動に移す。モチベーションに頼らず、過激でも急進的でもない小さな行動を日課にすれば、新たなアイデンティティが根づき、努力を継続できるだろう。


人間関係の重要性

健全な人間関係は、心身の健康を生涯にわたって守ってくれる。死を目前にした人が後悔することのトップ5の一つは、「友人ともっと連絡を取ればよかった」なのだ。しかし、どうすれば健全な人間関係を保つことができるかを知る人はいない。それに関してマニュアルはない。

互いに向き合うことが、深い信頼関係を築くための基盤になることを、カップル療法のセラピストや研究文献は示している。自分自身や自分の感情、愛する人とのつながりを断つことは、人間関係とメンタルヘルスにマイナスの影響を及ぼす。だが、私たちは難しい人間関係からの逃避を誘惑するものに囲まれている。感覚や思考が麻痺するほどソーシャルメディアを延々とスクロールしたり、仕事に没頭したりする。あるいは人間関係に背を向け、世間からの評価を高めることに没頭し、完璧で裕福な人だと思われるように努力する。こうしたことは全て、人間関係をうまく機能させるために真に必要とされるものではない。

人間関係が難しいのは、他者の要求や考えや感情を常に把握できるわけではないからだ。しかし、自分のそれらは把握できる。人間関係を改善したければ、まず自分を改善することから始めよう。


意味と価値観を共有する

誰かと人生を共に過ごすことを選択すると、価値観を確認したり、一歩下がって全体像を眺めたりすることは、自分だけの問題ではなくなる。人生の試練に耐え得る関係を築くには、互いの価値観の異なる部分を見つけ、異なる部分を尊重することが欠かせない。自分の目標と、パートナーと歩む人生における夢の両方について考えることにもつながる。人間関係や家族関係には、双方にとって重要なものもあれば、一方にとってだけ重要で、相手がそれに合わせることもある。

自分にとって一番大切なことをはっきりさせておくと、進むべき道がわからなくなった時に、それが羅針盤やガイドになる。パートナーとの関係においては、相手にとって何が一番大切かを時間をかけて理解することが、つながりを深め、互いが成長し活躍できる関係を築くために役立つ。


いつ専門家の助けを求めるべきか?

簡単に言えば「メンタルヘルスに不安を感じたときはいつでも」助けを求めるべきだ。理想的な世界では、効果的なセラピーを、必要とする人が必要な時に利用できるだろう。しかし現実の世界はそれほど理想的ではない。だから、もし専門家のサービスを利用できないのであれば、あらゆる機会を利用して学び、信頼できる人々と共有しよう。人と人との繋がりと教育は、メンタルヘルスを大きく向上させるのに役立つはずだ。自分の健康に責任を持つために、学べること、変えられることがある。そのためには、利用できるものからできるだけ多くを学び、いろいろ試し、失敗したらもう一度挑戦し、少しずつ知識を増やし、さらに学び続けることが大切だ。


最後に

今回引用したのは本書のほんの一部なので、興味がある方は是非購入して読んでみていただきたいです。きっと得られるものがたくさんあると思います。

私も食事、睡眠、運動など既に大事にしていて共感するものもあれば、日記をつける、マインドフルネスを実践する、呼吸に気をつける、価値観を洗い出すなどなど、新しくやろうと思わされたこともたくさんありました。

これからはより一層、特に自分や家族のメンタルヘルスに気を配って、心身ともに健康に過ごしていきたいと思います。


Toshimitsu Kugimoto

Software Engineer

仕事では決済やメディアのWebやスマホアプリのBE開発、WebのFE開発をやっています。 JavaとTypeScriptをよく使います。プライベートではFlutterでのアプリ開発にも挑戦中です。