【書評】ビジネス・クリエーション! アイデアや技術から新しい製品・サービスを創る24ステップ
【書評】ビジネス・クリエーション! アイデアや技術から新しい製品・サービスを創る24ステップ の個人的なまとめと感想を書きました。
前置き
次にどんなアプリを作ろうかなと考えていて、どうせならちゃんと流行るものを作りたいなと思い、最近いくつかビジネス書を読んでいました。私はクリエイター(ソフトウェアエンジニア)なので、つい最近まではモノづくり自体にしか興味がありませんでしたし、良いものを作れば勝手に売れるだろうなんて思ってましたが、そんなことはないことが分かり始めました。読んだ本の中でこの「ビジネス・クリエーション!アイデアや技術から新しい製品・サービスを創る24ステップ」という本が正にこういうことを知りたかったという感じでドンピシャだったので、後で解像度高く思い出せるように自分なりに気になった点をまとめておこうと思います。モノを作って世に出してあとはよろしく!だと売れないしビジネスにならないので、じっくり検討して狙いを定めて、ペルソナ立てて、潜在顧客を見つけてから作り始める必要があるんだという点が私にとっては一番大事な教訓です。
ビジネス・クリエーション!の概要
本書では、新たな製品・サービスをもとにビジネスを始めるための総合的な手順が24ステップで紹介されています。24ステップは以下6つに分類されます。各ステップで気になった点をまとめていきます。
- 顧客は誰か?
- 顧客のために何ができるか?
- 顧客はどうやって製品を手に入れるか?
- 製品からどうやって収益をあげるか?
- どのように製品を設計するべきか?
- どのように事業を拡大すればいいか?
イントロダクション
起業について以下3つは思い違いであると述べられている。
- 起業は一人で行うもの
- 起業家はみなカリスマ性を備えている
- 起業家になれるかどうかは生まれもった資質による
正しくは以下であるとのこと。
- 起業はチームが大きいほど成功の確率が高まる
- カリスマ性よりも、意思伝達、人材採用、販売を効果的に行なうことが大事
- 成功確率を高めるスキルは確かにあるが、それらは学んで身につけることが可能
ステップ0 起業はここから始める
「長期間かけてやってみたいことで、得意なものはなんだろう?」を考えることから始める。まずは自分が何に関心を持ち、どんな強みやスキルを持っているのかを書き出して整理する。検討すべき点は以下。
- 知識: 学生時代、あるいは職場で力を入れていた分野は何か
- 能力: もっとも得意なことは何か
- 人脈: 他業界に精通している人、他の起業家を知っているか
- 資金: 資金は十分に準備できそうか。あるいは、自分のわずかな預金だけが頼りか
- 知名度: あなた自身、あるいは両親は、たとえばエンジニアリングのスキルや、光ファイバー技術の知識などで名前を知られているか
- 過去の仕事における経験: これまで経験した仕事で、非効率的、あるいは「痛み」だと感じたことは何か
- 市場への情熱: ヘルスケア分野を改善するというアイデアに心躍るか。教育、エネルギー、輸送分野はどうか
- コミットメント: 時間と労力を注げるか。新事業に、最優先かつ先進して取り組めるか
ステップ1 市場を細分化して理解する
ビジネスに唯一の必要十分条件とは、「代金を支払ってくれる顧客」であり、製品を作ったり、開発者を採用したり、販売員を募集したりする前にやることがある。「満たされていない顧客のニーズを見つけ、それに関連するビジネスを構築する」こと。
圧倒的な優位性を獲得できるような市場を注意深く選んで、そこに経営資源を集中させる。
例えばまずは「テクノロジーによって教育改革を起こしたい」と考えるところから始める。そして、なぜその事業に魅力を感じるのかを自分に問う。テクノロジーに対する情熱の方が強いなら、教育分野に限らない方がいい。教育に強い情熱を抱いているなら、教育分野の市場を更に細分化する。(テクノロジー以外の解決策も排除しない)
アイデアを活かせる業界がいくつか見つかったら、それぞれ誰を助けるビジネスになりそうかをリストアップする。
市場の一次調査では、潜在顧客と直接やりとりをし、彼らの状況、悩み、ビジネスチャンス、市場に関する情報をできるだけ多く集める。顧客に直接話を聞くことは何よりも重要。目的は、顧客の痛みを理解し、それを解決する価値ある製品をのちに提供すること。
インターネットの検索やオフィスでの議論で終わらせず、ターゲット市場の顧客と直接話をする。
ステップ2 足がかり市場を決めよう
大きすぎる市場は避けて、小さな市場を選ぶ。絞り込む。
ステップ3 エンドユーザーを定義する
エンドユーザーのプロファイルに含めるべき項目は以下
- 性別
- 年齢層
- 職業
- 年収
- 地理的場所
- 何に意欲を感じるか
- 何に不安を感じるか
- ヒーローとする人物
- 休暇やディナーに出かける場所。出勤前に行く場所
- 購読する新聞、ウェブサイト。よく見るテレビ番組
- この製品を買う一般的な理由 (節約か、イメージか、仲間からの圧力か)
- 特徴や個性
- 生い立ちや逸話
特に、起業メンバーのなかにエンドユーザーのプロファイルに当てはまる人がいれば、早い段階から顧客を深く理解でき、成功の大きな要因となる。
ステップ4 足がかり市場の最大規模を算出しよう
一般に年間2000万~1億ドルの規模の市場をターゲットにするのが良い。
ステップ5 潜在顧客像をイメージする
単に「関心があるだけ」ではなく、実際に購入してくれそうな顧客を選んでペルソナを作る。最も重要なのは、ペルソナの購入基準の優先順位を特定したリストを作ること。例えば以下。
- 環境
- 個人的な情報
- 職歴
- 情報源
- 購入基準/優先順位
- ex, 信頼性(最優先)、成長性(高順位)、コスト(中順位)、環境保護(低順位)
- 特徴
- 目標
- ニーズ
- 悩み
ステップ6 製品のフルライフサイクルを知ろう
ターゲット顧客がどのように製品を使うかについて考える。
- エンドユーザーは、どのように、新たなニーズやチャンスがあると判断するか
- どのようにあなたの製品を発見するか
- どのように製品を分析するか
- どのように製品を獲得するか
- どのように製品を導入するか
- どのように製品を使うか
- どのように製品から得られる価値を決定するか
- どのように製品の代金を支払うか
- どのように製品のサポートを受けるか
- どのように製品を再購入するか、周囲に知らせるか
ステップ7 製品仕様を視覚化する
製品の各特徴がどのように顧客の利益になるかを、具体的に表現する。
ステップ8 製品の価値を数量化する
「より良い」「より速い」「より安い」などの利点を数値化して、ペルソナの優先事項に合わせて提案する。「現在」と製品を購入することによって可能になる「未来」とを可能な限り数値化して比較する。
ステップ9 見込み客10人を見つけよう
ペルソナを除く、10人以上の見込み顧客リストを作り、その人たちに関する情報をこれまでの調査をもとに書き加える。製品が発売された暁には、それを購入するかどうかを尋ねてみる。「この製品を買ってくれますか?」と頼むのではなく、「もしこの製品が販売されたら、買ってみたいと思いますか?」と質問形式で尋ねる。
ステップ10 事業のコアを定義する
自分たちの製品にできて、競合他社が簡単に真似できないことは何かを考える。それがビジネスのコアとなる。コアには例えば以下のようなものがあるが、大切なのはコアを明確にすること、また、コアを絶えず発展させて戦略を策定したり、実行するときもコアを中心に考えること。コアは競争に勝つ最後の砦。
- ネットワーク効果
- 利用者が一番多い企業の価値こそ一番大きい。
- 顧客サービス
- 他社よりも優れた顧客サービスを提供するために注力するプロセスと文化を築く
- 顧客サービスをコアにするには、常に顧客満足度を高水準に保とうとする熱意と、組織全体の取り組みが必要になる。
- 最安値
- コストを他社より抑えて低価格を長期戦略にする。
- コアとしてよりは、市場参入の手法として使われることが多い。ホンダがアメリカ市場に参入した時もそうだった
- ユーザー体験
- 多くの企業のコアとされているのがこのユーザー体験(UX)
- どこよりも素晴らしいUXを提供することを重視する。
- アップルのコアはまさしくこれ。
画期的な製品を素早く世に送り出すプロセスや企業文化によって市場の優位性を獲得している企業もあるが、事業が大きくなるにつれてコアを維持しにくくなってしまう。よって、新製品開発の速さはコアではなく、コアを活かす要素とされることが多い。つまり、全てのビジネスは、コアがなんであろうと、素早い製品開発を目指すべき。
ステップ11 市場の戦略的ポジションをとろう
新しい市場を創出するときは、既存品を真似たり改善したりするのではなく、まず顧客を理解するところから始める。ペルソナの最優先事項を理解する。
一番の強敵は"顧客の現状" で、顧客に現状を変えるべきだと納得させることが最も大きな壁になることがよくある。
顧客の現状や、人や組織の習慣を変えることができれば、もっと大きな市場を獲得できる。
貴重な時間をライバルのために費やすのはやめ、顧客に接触し、コアを発展させ、製品を世に送り出すことに注力すべき。
ステップ12 製品を買う意思決定者を知ろう
製品販売を成功させるには、エンドユーザーだけでなく誰が購入決定に関わっているかを知るべき。
ステップ13 顧客獲得のプロセスを確認する
顧客獲得のプロセスマップを作り、販売サイクルの長さを理解し、顧客獲得コストを計算するベースを作り、製品の販売や代金支払いの妨げとなる隠れた要因を突き止める。
- 顧客は現状を変える必要性やその機会があることをどのように判断するのか。顧客がこれまでの行動を変え、あなたの製品を買うのを習慣とするにはどうすればいいのか
- 顧客はどうやってあなたの製品を知るか
- 顧客はどのように製品を分析するか
- 顧客はどのように製品を購入するか
- 顧客はどのように製品を設置するか
- 顧客はどのように代金を支払うか
ステップ14 足がかりの次に狙う市場規模を算出する
足がかり市場で成功した後に狙うべき類似市場の存在と大きさについて考えてみる。検討中のビジネスが拡大可能であることを確認し、より大きなビジネスチャンスの規模と性質を知るため。投資家の関心を引いて大きな事業にしたいなら、足がかり市場と次なる市場の規模の合計が10億ドルを超えていなければならない。
ステップ15 ビジネスモデルを設計する
起業の際、ビジネスモデルの策定にあまり時間をかけない人もいる。エンドユーザーのプロファイルを作り、製品定義、どのような価値を提供できるかを顧客に示すことなどには多くの時間を費やすが、その価値を収益性の高いビジネスに変える仕組みを考えることにはほとんど時間を割かない。製品を市場に送り出すことに夢中で、ビジネスモデルについては評判がいいモデルをただ取り入れて終わりにしてしまう。ビジネスモデルの設計には時間をかけるべき。
製品価格は、製品が顧客にどれだけの価値を提供するかによって決めるべきで、かかった費用を好きなように積み上げればいいというものではない。
製品の基本的な機能をユーザーに無料で提供し、高度な機能の利用には料金を課したり、追加機能を購入させたりする「フリーミアム」や、採算の合う方法が見つかるまでに投資家の資金に頼って顧客基盤を築こうとする「先送り」はビジネスモデルとは言えない。ビジネスは、製品に対して実際に代金を払う顧客を得て初めて成立する。
ステップ16 価格体系を決める
コストを価格決定の要因にしない。価格は、製品を販売する企業が負担するコストではなく、顧客が製品から得る価値をもとに決める。ソフトウェアの場合、限界費用(ソフトウェアをもう1単位作るのにかかる費用)は実質的にゼロになる。したがって、コストをもとに価格を設定すれば、ほんのわずかしか利益を得られない。よって、数量化された価値の提案をもとに顧客が製品から得る価値を算出し、その何割かを価格として設定すると良い。
価格は上げるよりも下げる方が容易で、安く手に入るなら最新技術でなくても良いと考える後期の顧客よりも、初期の顧客は多くの予算を用意している場合が多い。
ステップ17 足がかり市場の見込み収益を算定しよう
新たなビジネスが持続可能で魅力的なものであるかどうかをミクロ経済学の観点から判断するために、事業単位あたりの経済性を示す「ユニット・エコノミクス」を考える。獲得した顧客生涯価値(LTV)と顧客獲得コスト(COCA)を算出することで、足がかり市場でどの程度の収益を上げられるかを予測する。サービスとしてソフトウェアを提供する企業の場合、LTVとCOCAの比率は3対1が妥当。
ステップ18 顧客への販売プロセスを見直そう
新規事業では大抵、顧客獲得コストが非常に大きく、時間の経過とともに小さくなっていく。創業時は契約が成立するまでの販売プロセスに、事業が成熟してからよりはるかに多くの時間と投資を必要とする。販売プロセスを短期、中期、長期の3つに分けて分析する。
短期の場合、
- 販売プロセスの主眼を、需要創出と注文に応えることにおく。
- 特に製品がウェブアプリケーションの場合、直接販売員だけに頼るよりも、無料試用を提供する方が上手くいくことがある。人的チャネルでは得られない幅広い分析ができるのがメリットの一つ。
ステップ19 顧客獲得コストを算出する
顧客一人を獲得するためにいくらかかるかを計算する。創業時は直接販売を担当する人員の雇用が必要になるかもしれないが、それには多額の費用がかかる。費用をできるだけ抑えるため、テレマーケティング、存在感のあるウェブサイト、ソーシャルメディアなどへの投資も検討する。
ステップ20 新ビジネスに関わる仮説を特定しよう
ペルソナの優先順位を正確に認識しているか。顧客は購入の段階になったとき、提案する価値に魅力を感じるか。コストの見積もりは正確か。ソフトウェア開発の場合も同様に、主要な開発課題、仮説、費目をリストにする。
ステップ21 主要な仮説を改めて検証する
例えば「25~34歳のスマートフォンユーザーはその日に着る服を決めるためにスマートフォンで天気予報を見る」という仮説を立てたとき、実際にスポーツクラブやレストランに出向き、スマートフォンに天気予報のアプリを入れているか、それを使っているかどうかを尋ねる。
ステップ22 実用最小限のビジネス製品を作る
最初の製品は、つけたい機能全部を備えていなくても、変数ができるだけ少なく、顧客が手に入れやすいものの方が成功の可能性が大きくなる。主要な仮説を特定して、最も重要なものを選び出し、それを顧客が使用できる製品に仕上げて、顧客が買うかどうかを検証する。
ステップ23 顧客が代金を払ってくれる製品か検証する
実用最小限のビジネス製品をターゲット顧客に披露し、それが顧客に受け入れられるか、代金を支払ってもらえるかを検証して、仮説が現実世界で実現することを証明する。
ステップ24 製品の成長戦略を練ろう
実用最小限のビジネス製品では、いくつかの特徴のうち必要最小限のものに注力するため、保留にした特徴があるはず。製品プランでは、どの特徴を組み入れるかをペルソナのニーズに合わせて決める。
あとがき
実用最小限のビジネス製品を作った後も、前進のために次のことを学ばなければならない。
- 企業文化を構築する
- 創業チームのメンバーを選ぶ
- チームを大きくする
- 製品を開発する
- 販売の実行
- 顧客サービスとそのプロセスの構築
- 資金調達とキャッシュフロー管理
- 規模拡大のための資金調達
- リーダーシップと事業拡大
- ガバナンスの確立
感想
今までの考え方だと、「アイデアを思いつく」→「実用最小限のビジネス製品を作る」くらいのステップでしか考えられていませんでしたが、製品を作る以前に21ステップもあるんだというのが衝撃でした。前置きにも書きましたが、モノを作って世に出してあとはよろしく!だと売れないしビジネスにならないので、じっくり検討して狙いを定めて、ペルソナ立てて、潜在顧客を見つけてから作り始める必要があるんだという点が一番大事かなと思いました。
とはいえ、個人開発で本業や育児もある状態だと時間も限られてますし、検討ばかりやっていつまでもモノ作りに着手できずに、いつの間にか熱が冷めてアイデアごと放棄する、なんてことになりかねない怖さはあります。(それこそ仲間が必要という話かなとも思いましたが)
個人的には結構、一人目の潜在顧客を見つけるところから早速ハードルが高いなと思ってしまいましたが、個人開発の場合は特に、「今自分が欲しいもの」とか、「過去の自分が欲しかったもの」を考えていくのがまずは良いのかもと思いました。
この本は今後も教科書的な使い方ができそうなので、詰まったら定期的に読み返しつつ、ちゃんとビジネスとして成り立つモノ作りをやっていきたいと思います。